Zinc/ja: Difference between revisions
Zinc/ja
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亜鉛(I)化合物は非常に稀である。[Zn<sub>2</sub>]<sup>2+</sup>イオンは、溶融ZnCl<sub>2</sub>に金属亜鉛を溶かすと黄色い反磁性ガラスが形成されることから示唆されている。[Zn<sub>2</sub>]<sup>2+</sup>コアは、[[mercury (element)/ja|水銀]](I)化合物に存在する[Hg<sub>2</sub>]<sup>2+</sup>カチオンと類似している。このイオンの[[diamagnetism/ja|反磁的]]な性質は、その二量体構造を裏付けている。Zn-Zn結合を含む最初の亜鉛(I)化合物[[Decamethyldizincocene/ja|(η<sup>5</sup>-C<sub>5</sub>Me<sub>5</sub>)<sub>2</sub>Zn<sub>2</sub>]]である。 | 亜鉛(I)化合物は非常に稀である。[Zn<sub>2</sub>]<sup>2+</sup>イオンは、溶融ZnCl<sub>2</sub>に金属亜鉛を溶かすと黄色い反磁性ガラスが形成されることから示唆されている。[Zn<sub>2</sub>]<sup>2+</sup>コアは、[[mercury (element)/ja|水銀]](I)化合物に存在する[Hg<sub>2</sub>]<sup>2+</sup>カチオンと類似している。このイオンの[[diamagnetism/ja|反磁的]]な性質は、その二量体構造を裏付けている。Zn-Zn結合を含む最初の亜鉛(I)化合物[[Decamethyldizincocene/ja|(η<sup>5</sup>-C<sub>5</sub>Me<sub>5</sub>)<sub>2</sub>Zn<sub>2</sub>]]である。 | ||
===亜鉛(II)化合物=== | ===亜鉛(II)化合物=== | ||
[[File:Zinc acetate.JPG|thumb|left|[[Zinc acetate/ja|酢酸亜鉛]], {{chem|Zn|(|C|H|3|C|O|2|)|2}}|alt=ゆっくりとした蒸発によって形成される酢酸亜鉛のシート]] | [[File:Zinc acetate.JPG|thumb|left|[[Zinc acetate/ja|酢酸亜鉛]], {{chem|Zn|(|C|H|3|C|O|2|)|2}}|alt=ゆっくりとした蒸発によって形成される酢酸亜鉛のシート]] | ||
[[File:Zinc chloride.jpg|thumb|塩化亜鉛|alt=ガラス板上の白い塊状の粉]] | [[File:Zinc chloride.jpg|thumb|塩化亜鉛|alt=ガラス板上の白い塊状の粉]] | ||
亜鉛の[[Binary compound/ja|二元化合物]]は、ほとんどの[[metalloid/ja|メタロイド]]と[[noble gas/ja|希ガス]]を除くすべての[[Nonmetal (chemistry)/ja|非金属]]で知られている。酸化物[[zinc oxide/ja|ZnO]]は白色の粉末で、中性の水溶液にはほとんど溶けないが、[[amphoteric/ja|両性]]であり、強い塩基性溶液にも酸性溶液にも溶ける。他の[[chalcogen/ja|カルコゲン]]化物([[zinc sulfide/ja|ZnS]]、[[zinc selenide/ja|ZnSe]]、[[zinc telluride/ja|ZnTe]])は電子工学や光学で様々な用途がある。また、[[Zinc nitride/ja|{{chem|Zn|3|N|2}}]、[[zinc phosphide/ja|{{chem|Zn|3|P|2}}]、[[zinc arsenide/ja|{chem|Zn|3|As|2}}]などの[[Pnictogenide/ja|ニクトゲン化物]]材料もある、また、[[zinc antimonide/ja|{chem|Zn|3|Sb|2}}]、過酸化物([[zinc peroxide/ja|{{Chem|ZnO|2}}])、水素化物([[zinc hydride/ja|{Chem|ZnH|2}}])、炭化物({{Chem|ZnC|2}})も知られている。4つの[[halide/ja|ハロゲン化物]]のうち、[[zinc fluoride/ja|{{ | 亜鉛の[[Binary compound/ja|二元化合物]]は、ほとんどの[[metalloid/ja|メタロイド]]と[[noble gas/ja|希ガス]]を除くすべての[[Nonmetal (chemistry)/ja|非金属]]で知られている。酸化物[[zinc oxide/ja|ZnO]]は白色の粉末で、中性の水溶液にはほとんど溶けないが、[[amphoteric/ja|両性]]であり、強い塩基性溶液にも酸性溶液にも溶ける。他の[[chalcogen/ja|カルコゲン]]化物([[zinc sulfide/ja|ZnS]]、[[zinc selenide/ja|ZnSe]]、[[zinc telluride/ja|ZnTe]])は電子工学や光学で様々な用途がある。また、[[Zinc nitride/ja|{{chem|Zn|3|N|2}}]]、[[zinc phosphide/ja|{{chem|Zn|3|P|2}}]]、[[zinc arsenide/ja|{{chem|Zn|3|As|2}}]]などの[[Pnictogenide/ja|ニクトゲン化物]]材料もある、また、[[zinc antimonide/ja|{{chem|Zn|3|Sb|2}}]]、過酸化物([[zinc peroxide/ja|{{Chem|ZnO|2}}]])、水素化物([[zinc hydride/ja|{{Chem|ZnH|2}}]])、炭化物({{Chem|ZnC|2}})も知られている。4つの[[halide/ja|ハロゲン化物]]のうち、[[zinc fluoride/ja|{{chem|ZnF|2}}]]は最もイオン的な性質を持ち、他のもの([[zinc chloride/ja|{{chem|ZnCl|2}}]]、[[zinc bromide/ja|{{chem|ZnBr|2}}]]、[[zinc iodide/ja|{{chem|ZnI|2}}]])は比較的融点が低く、共有結合的な性質が強いと考えられている。 | ||
{{Chem|Zn|2+}}イオンを含む弱い塩基性溶液では、水酸化物[[Zinc hydroxide/ja|{{Chem|Zn(OH)|2}}]]が白色の[[precipitate/ja|沈殿物]]を形成する。より強いアルカリ溶液では、この水酸化物は溶解して亜鉛酸塩([[zincate/ja|{{chem|[Zn||(OH)<sub>4</sub>]|2-}}]])を形成する。) 硝酸塩[[Zinc nitrate/ja|{{chem|Zn(NO<sub>3</sub>)|2}}]]、塩素酸塩[[Zinc chlorate/ja|{{chem|Zn(ClO<sub>3</sub>)|2}}]]、硫酸塩[[Zinc sulfate/ja|{{chem|ZnSO|4}}]]、リン酸塩[[Zinc phosphate/ja|{{chem|Zn|3|(PO<sub>4</sub>)|2}}]]、モリブデン酸塩[[Zinc molybdate/ja|{{chem|ZnMoO|4}}]]、シアン化物[[Zinc cyanide/ja|{{化学式|Zn(CN)|2}}]]、亜ヒ酸{{chem|Zn(AsO<sub>2</sub>)|2}}、 ヒ酸塩{{chem|Zn(AsO<sub>4</sub>)|2|-8H|2|O}}やクロム酸塩[[Zinc chromate/ja|{{chem|ZnCrO|4}}]](数少ない有色亜鉛化合物のひとつ)は、亜鉛の他の一般的な無機化合物のいくつかの例である。 | {{Chem|Zn|2+}}イオンを含む弱い塩基性溶液では、水酸化物[[Zinc hydroxide/ja|{{Chem|Zn(OH)|2}}]]が白色の[[precipitate/ja|沈殿物]]を形成する。より強いアルカリ溶液では、この水酸化物は溶解して亜鉛酸塩([[zincate/ja|{{chem|[Zn||(OH)<sub>4</sub>]|2-}}]])を形成する。) 硝酸塩[[Zinc nitrate/ja|{{chem|Zn(NO<sub>3</sub>)|2}}]]、塩素酸塩[[Zinc chlorate/ja|{{chem|Zn(ClO<sub>3</sub>)|2}}]]、硫酸塩[[Zinc sulfate/ja|{{chem|ZnSO|4}}]]、リン酸塩[[Zinc phosphate/ja|{{chem|Zn|3|(PO<sub>4</sub>)|2}}]]、モリブデン酸塩[[Zinc molybdate/ja|{{chem|ZnMoO|4}}]]、シアン化物[[Zinc cyanide/ja|{{化学式|Zn(CN)|2}}]]、亜ヒ酸{{chem|Zn(AsO<sub>2</sub>)|2}}、 ヒ酸塩{{chem|Zn(AsO<sub>4</sub>)|2|-8H|2|O}}やクロム酸塩[[Zinc chromate/ja|{{chem|ZnCrO|4}}]](数少ない有色亜鉛化合物のひとつ)は、亜鉛の他の一般的な無機化合物のいくつかの例である。 | ||
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===単離=== | ===単離=== | ||
[[File:Andreas Sigismund Marggraf-flip.jpg|thumb|upright|[[:en:Andreas Sigismund Marggraf|アンドレアス・シギスムント・マルグラーフ]]は純粋な亜鉛を初めて単離した功績がある。男は長い顔、短い髪、高い額をしている]] | [[File:Andreas Sigismund Marggraf-flip.jpg|thumb|upright|[[:en:Andreas Sigismund Marggraf|アンドレアス・シギスムント・マルグラーフ]]は純粋な亜鉛を初めて単離した功績がある。男は長い顔、短い髪、高い額をしている]] | ||
金属亜鉛は西暦1300年までにインドで単離された。ヨーロッパで分離される前に、西暦1600年頃にインドから輸入された。ヨーロッパの技術情報を提供する現代の資料である[[:en:Postlewayt|Postlewayt]]の''Universal Dictionary''には1751年以前に亜鉛は記載されていないが、それ以前にこの元素は研究されていた。 | 金属亜鉛は西暦1300年までにインドで単離された。ヨーロッパで分離される前に、西暦1600年頃にインドから輸入された。ヨーロッパの技術情報を提供する現代の資料である[[:en:Postlewayt|Postlewayt]]の''Universal Dictionary''には1751年以前に亜鉛は記載されていないが、それ以前にこの元素は研究されていた。 | ||
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===その後の仕事=== | ===その後の仕事=== | ||
[[File: | [[File:Luigi Galvani, oil-painting.jpg|thumb|upright|left|[[Galvanization/ja|亜鉛めっき]]は[[:en:Luigi Galvani|ルイジ・ガルヴァーニ]]にちなんで命名された。alt=かつら、黒い上着、白いシャツ、白いスカーフを身につけ、テーブルのそばに座る中年男性の絵]] | ||
ウィリアム・チャンピオンの弟ジョンは、1758年に硫化亜鉛をレトルト処理で使用可能な酸化物に[[calcining/ja|焼成]]するプロセスの特許を取得した。それ以前は、亜鉛の製造にはカラミンしか使用できなかった。1798年、[[:en:Johann Christian Ruberg|ヨハン・クリスチャン・ルーベルグ]]が最初の水平レトルト製錬所を建設して製錬プロセスを改良した。[[:en:Jean-Jacques Daniel Dony|ジャン・ジャック・ダニエル・ドニー]]は、ベルギーにさらに多くの亜鉛を処理する別の種類の水平亜鉛製錬所を建設した。 | ウィリアム・チャンピオンの弟ジョンは、1758年に硫化亜鉛をレトルト処理で使用可能な酸化物に[[calcining/ja|焼成]]するプロセスの特許を取得した。それ以前は、亜鉛の製造にはカラミンしか使用できなかった。1798年、[[:en:Johann Christian Ruberg|ヨハン・クリスチャン・ルーベルグ]]が最初の水平レトルト製錬所を建設して製錬プロセスを改良した。[[:en:Jean-Jacques Daniel Dony|ジャン・ジャック・ダニエル・ドニー]]は、ベルギーにさらに多くの亜鉛を処理する別の種類の水平亜鉛製錬所を建設した。 | ||
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亜鉛の相対的な反応性とそれ自体に酸化を引き寄せる能力により、亜鉛は[[:en:cathodic protection|カソード保護]](CP)における効率的な[[:en:sacrificial anode|犠牲陽極]]となっている。例えば、埋設パイプラインのカソード保護は、亜鉛で作られた陽極をパイプに接続することで達成できる。亜鉛は鋼管に電流を流すと徐々に腐食し、[[:en:anode|陽極]](負の終端)として機能する。亜鉛は、海水にさらされる金属の陰極保護にも使われる。船の鉄製舵に取り付けられた亜鉛ディスクは、舵が無傷のままゆっくりと腐食していく。同様に、プロペラや船のキールの金属製保護ガードに取り付けられた亜鉛プラグは、一時的な保護を提供する。 | 亜鉛の相対的な反応性とそれ自体に酸化を引き寄せる能力により、亜鉛は[[:en:cathodic protection|カソード保護]](CP)における効率的な[[:en:sacrificial anode|犠牲陽極]]となっている。例えば、埋設パイプラインのカソード保護は、亜鉛で作られた陽極をパイプに接続することで達成できる。亜鉛は鋼管に電流を流すと徐々に腐食し、[[:en:anode|陽極]](負の終端)として機能する。亜鉛は、海水にさらされる金属の陰極保護にも使われる。船の鉄製舵に取り付けられた亜鉛ディスクは、舵が無傷のままゆっくりと腐食していく。同様に、プロペラや船のキールの金属製保護ガードに取り付けられた亜鉛プラグは、一時的な保護を提供する。 | ||
[[:en:standard electrode potential|標準電極電位]](SEP)は-0.76[[:en:Volt|ボルト]]であり、亜鉛は電池の負極材料として使用される。(より反応性の高いリチウム(SEP -3.04V)は[[:en:Lithium battery|リチウム電池]]の負極に使用される)。粉末亜鉛は[[:en:alkaline battery|アルカリ乾電池]]でこのように使用され、[[:en:Zinc–carbon battery|亜鉛-炭素電池]]のケース(負極としても機能する)は板状の亜鉛から形成される。亜鉛は[[:en:zinc–air battery|空気亜鉛電池]]/燃料電池の負極または燃料として使用される。[[:en:Zinc–cerium battery|亜鉛-セリウム電池]][[:en:redox flow battery|レドックスフロー電池]]も亜鉛ベースの負極ハーフセルに依存している。 | |||
[[:en:standard electrode potential|標準電極電位]](SEP)は-0.76[[:en:Volt|ボルト]] | |||
===合金=== | ===合金=== | ||
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亜鉛の[[Topical administration/ja|局所製剤]]には、皮膚に使用するものがあり、多くの場合[[zinc oxide/ja|酸化亜鉛]]の形で使用される。酸化亜鉛は一般的に安全で効果的であるとFDAに認められており、非常に光安定性が高いと考えられている。酸化亜鉛は、[[sunburn/ja|日焼け]]を軽減するために日焼け止めに配合される最も一般的な有効成分のひとつである。おむつ交換のたびに赤ちゃんのおむつ部分([[perineum/ja|会陰]])に薄く塗ると、[[diaper rash/ja|おむつかぶれ]]を防ぐことができる。 | 亜鉛の[[Topical administration/ja|局所製剤]]には、皮膚に使用するものがあり、多くの場合[[zinc oxide/ja|酸化亜鉛]]の形で使用される。酸化亜鉛は一般的に安全で効果的であるとFDAに認められており、非常に光安定性が高いと考えられている。酸化亜鉛は、[[sunburn/ja|日焼け]]を軽減するために日焼け止めに配合される最も一般的な有効成分のひとつである。おむつ交換のたびに赤ちゃんのおむつ部分([[perineum/ja|会陰]])に薄く塗ると、[[diaper rash/ja|おむつかぶれ]]を防ぐことができる。 | ||
キレート化亜鉛は、[[halitosis/ja|口臭]]を予防するために歯磨き粉や洗口液に使われる。クエン酸亜鉛は、[[Calculus (dental)/ja|歯石]]の蓄積を抑えるのに役立つ。 | |||
[[Zinc pyrithione/ja|ジンクピリチオン]]は、フケを防ぐためのシャンプーに広く含まれている。 | |||
[[Zinc pyrithione]] | |||
局所亜鉛はまた、[[genital herpes/ja|性器ヘルペス]]を効果的に治療し、寛解を延長することが示されている。 | |||
==生物学的役割{{Anchor|Biological role}}== | |||
==Biological role== | {{Main/ja|Zinc in biology/ja}} | ||
{{Main|Zinc in biology}} | 亜鉛はヒトや他の動物、植物、[[microorganism/ja|微生物]]にとって必須の[[trace element/ja|微量元素]]である。亜鉛は300を超える[[enzyme/ja|酵素]]と1000を超える[[transcription factor/ja|転写因子]]の機能に必要であり、[[metallothionein/ja|メタロチオネイン]]に貯蔵され移動する。亜鉛は鉄に次いでヒトに多く含まれる微量金属であり、すべての[[Enzyme/ja#Naming conventions|酵素クラス]]に現れる唯一の金属である。 | ||
タンパク質では、亜鉛イオンはしばしば[[aspartic acid/ja|アスパラギン酸]]、[[glutamic acid/ja|グルタミン酸]]、[[cysteine/ja|システイン]]、[[histidine/ja|ヒスチジン]]などのアミノ酸側鎖に配位する。タンパク質におけるこの亜鉛結合(他の遷移金属と同様)の理論的・計算的記述は困難である。 | |||
{{nowrap|2–4}} グラムの亜鉛が人体全体に分布している。亜鉛の大部分は脳、筋肉、骨、腎臓、肝臓にあり、前立腺と眼の一部に最も多く含まれている。特に[[semen/ja|精液]]には亜鉛が豊富に含まれており、[[prostate gland/ja|前立腺]]の機能と[[reproductive organ/ja|生殖器]]の成長に重要な因子である。 | |||
体内の亜鉛ホメオスタシスは、主に腸によって制御されている。ここでは、[[SLC39A4/ja|ZIP4]]、特に[[TRPM7/ja|TRPM7]]が、生後の生存に不可欠な腸での亜鉛取り込みに関連していることが示された。 | |||
ヒトにおいて、亜鉛の生物学的役割はいたるところにある。広範な有機[[ligand/ja|リガンド]]と相互作用し、RNAとDNAの代謝、[[signal transduction/ja|シグナル伝達]]、[[gene expression/ja|遺伝子発現]]に関与する。また、[[apoptosis/ja|アポトーシス]]も制御する。2015年の総説によると、ヒトのタンパク質の約10%(~3000)が亜鉛と結合し、さらに亜鉛を輸送・運搬する数百のタンパク質が存在する。植物''[[Arabidopsis thaliana/ja|シロイヌナズナ]]''でも同様の''[[in silico/ja|シリコン内]]''研究が行われ、2367個の亜鉛関連タンパク質が発見された。 | |||
[[brain/ja|脳]]では、亜鉛は[[glutamatergic/ja|グルタミン酸作動性]][[neuron/ja|ニューロン]]の特定の[[synaptic vesicles/ja|シナプス小胞]]に貯蔵される。ニューロンの興奮性を調節することができる。それは[[synaptic plasticity/ja|シナプス可塑性]]において重要な役割を果たすので、学習において重要である。亜鉛の[[homeostasis/ja|恒常性]]もまた、[[central nervous system/ja|中枢神経系]]の機能調節において重要な役割を果たしている。シナプスの亜鉛濃度が過剰になる中枢神経系における亜鉛ホメオスタシスの調節異常は、ミトコンドリアの酸化ストレスを介して(例えば、[[neurotoxicity/ja|神経毒性]]を誘発すると考えられている、 例えば、[[complex I/ja|複合体I]]、[[complex III/ja|複合体III]]、[[α-ketoglutarate dehydrogenase/ja|α-ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ]]などの[[electron transport chain/ja|電子伝達連鎖]]に関与する特定の酵素を障害することによって)、カルシウムホメオスタシスの調節障害、グルタミン酸作動性神経細胞の[[excitotoxicity/ja|興奮毒性]]、および神経細胞内の[[signal transduction/ja|シグナル伝達]]の妨害によって神経毒性を引き起こすと考えられている。L-およびD-ヒスチジンは脳への亜鉛の取り込みを促進する。[[SLC30A3/ja|SLC30A3]]は、脳内亜鉛ホメオスタシスに関与する主要な[[Solute carrier family/ja#Solute carrier family 30|亜鉛トランスポーター]]である。 | |||
===酵素=== | |||
== | [[File:Carbonic anhydrase.png|thumb|ヒト[[carbonic anhydrase/ja|炭酸脱水酵素]]の[[:en:Ribbon diagram|リボン図]]。中央に亜鉛原子が見える|alt=縞模様は互いにつながっており、ほとんどが黄色と青色で、わずかに赤色の部分がある。]] | ||
[[File:Carbonic anhydrase.png|thumb|[[ | [[File:Zinc finger rendered.png|thumb|[[Zinc fingers/ja|ジンクフィンガー]]はDNA配列の読み取りに役立つ。|alt=片側が青く、もう片側が灰色に塗られたねじれたバンド。その両端は、何らかの化学種を介して緑色の原子(亜鉛)につながっている。]] | ||
[[File:Zinc finger rendered.png|thumb|[[Zinc fingers]] | 亜鉛は効率的な[[Lewis acid/ja|ルイス酸]]であり、[[hydroxylation/ja|水酸化]]やその他の酵素反応において有用な触媒となる。また、この金属は柔軟な[[coordination geometry/ja|配位幾何学]]を持っているため、これを使ったタンパク質は生物学的反応を行うために[[protein structure/ja|コンフォーメーション]]を素早く変化させることができる。亜鉛含有酵素の2つの例は[[carbonic anhydrase/ja|炭酸脱水酵素]]と[[carboxypeptidase/ja|カルボキシペプチダーゼ]]で、それぞれ[[carbon dioxide/ja|二酸化炭素]]({{chem|CO|2}})の調節とタンパク質の消化のプロセスに不可欠である。 | ||
脊椎動物の血液中では、炭酸脱水酵素が{{chem|CO|2}}を重炭酸塩に変換し、同じ酵素が重炭酸塩を{{chem|CO|2}}に戻して肺から吐き出す。この酵素がなければ、この変換は通常の血液[[pH/ja|pH]]7では約100万倍遅く起こるか、10以上のpHを必要とする。関連性のないβ-炭酸脱水酵素は、植物では葉の形成、[[indole-3-acetic acid/ja|インドール酢酸]](オーキシン)の合成、[[alcoholic fermentation/ja|アルコール発酵]]に必要である。 | |||
カルボキシペプチダーゼはタンパク質を消化する際にペプチド結合を切断する。末端ペプチドと亜鉛に結合したC=O基の間に[[coordinate covalent bond/ja|配位共有結合]]が形成され、炭素が正電荷を帯びる。これは亜鉛の近くに酵素上の[[hydrophobic/ja|疎水性]]ポケットを作るのに役立ち、消化されるタンパク質の非極性部分を引き寄せる。 | |||
===シグナル伝達=== | |||
亜鉛はシグナル伝達経路を活性化するメッセンジャーとして認識されてきた。これらの経路の多くは、異常ながん増殖の原動力となっている。これらの経路は、[[Zinc transporter protein/ja|ZIPトランスポーター]]を介して標的とすることができる。 | |||
===他のタンパク質=== | |||
亜鉛は[[zinc finger/ja|ジンクフィンガー]]、ツイスト、クラスターにおいて純粋に構造的な役割を果たす。亜鉛フィンガーはいくつかの[[transcription factor/ja|転写因子]]の一部を形成しており、これは[[DNA/ja|DNA]]の複製と転写の際に[[DNA sequence/ja|DNA塩基配列]]を認識するタンパク質である。ジンクフィンガーに含まれる9~10個の{{chem|Zn|2+}}イオンはそれぞれ、転写因子内の4つの[[amino acid/ja|アミノ酸]]と協調的に結合することで、フィンガーの構造を維持するのに役立っている。 | |||
[[blood plasma/ja|血漿]]中では、亜鉛は[[albumin/ja|アルブミン]](60%、低親和性)と[[transferrin/ja|トランスフェリン]](10%)に結合して運搬される。トランスフェリンは鉄も輸送するため、過剰な鉄は亜鉛の吸収を低下させ、逆もまた同様である。銅にも同様の拮抗作用が存在する。血漿中の亜鉛濃度は、亜鉛の摂取量に関係なく比較的一定に保たれる。唾液腺、前立腺、免疫系、腸の細胞は、[[Cell signaling/ja|亜鉛シグナル伝達]]を使って他の細胞とコミュニケーションをとる。 | |||
亜鉛は[[metallothionein/ja|メタロチオネイン]]として微生物や動物の腸や肝臓に蓄えられている。メタロチオネインは両方の金属を吸収するため、亜鉛の過剰摂取は特に銅の吸収を損なう。 | |||
ヒトの[[dopamine transporter/ja|ドーパミントランスポーター]]には[[affinity (pharmacology)/ja|高親和性]]の細胞外亜鉛[[binding site/ja|結合部位]]が存在し、亜鉛が結合するとドーパミンの[[reuptake/ja|再取り込み]]を阻害し、[[amphetamine/ja|アンフェタミン]]による[[neurotransmitter efflux/ja|ドーパミンの流出]]を増幅する''[[in vitro|試験管内]]''。ヒトの[[serotonin transporter/ja|セロトニントランスポーター]]と[[norepinephrine transporter/ja|ノルエピネフリントランスポーター]]は亜鉛結合部位を含まない。[[S100 protein/ja|S100]]や[[Neuronal calcium sensor-1/ja|NCS-1]]などのいくつかの[[EF hand/ja|EF-hand]][[Calcium-binding protein/ja|カルシウム結合タンパク質]]も亜鉛イオンと結合することができる。 | |||
=== 栄養 === | |||
=== | ====食事の推奨量==== | ||
==== | [[:en:U.S. Institute of Medicine|米国医学研究所]](IOM)は、2001年に亜鉛の推定平均所要量 (EAR)と推奨食事許容量(RDA)を更新した。現在の亜鉛のEARは14歳以上の女性で6.8mg/日、 男性で9.4 mg/日である。RDAは8mg/日と11mg/日である。RDAはEARよりも高く設定されているが、これは必要量が平均より多い人をカバーする量を特定するためである。妊娠中のRDAは11 mg/日である。授乳期のRDAは12 mg/日である。12ヵ月までの乳児のRDAは3 mg/日である。1~13歳の小児のRDAは3~8 mg/日と年齢とともに増加する。安全性に関しては、IOMは十分なエビデンスがある場合、ビタミンとミネラルについて[[Tolerable upper intake level/ja|耐容上限摂取量]](UL)を設定している。亜鉛の場合、成人のULは食品とサプリメントの両方を合わせて40 mg/日である(小児はもっと低い)。EAR、RDA、AI、ULを総称して[[Dietary Reference Intake/ja|食事摂取基準]](DRI)と呼ぶ。 | ||
[[:en:European Food Safety Authority|欧州食品安全機関]](EFSA)は、これらの情報をまとめて食事摂取基準値(Dietary Reference Values)と呼び、RDAの代わりに人口摂取基準(Population Reference Intake:PRI)、EARの代わりに平均必要量(Average Requirement)と表記している。AIとULの定義は米国と同じである。EFSAは、食事中の[[phytate/ja|フィチン酸塩]]含有量の増加に伴い、より高い値を設定しているため、18歳以上の人々のPRI計算は複雑である。女性の場合、フィチン酸の摂取量が300~1200 mg/日に増加すると、PRIは7.5~12.7 mg/日に増加し、男性の場合は9.4~16.3 mg/日の範囲である。これらのPRIは米国のRDAよりも高い。EFSAは同じ安全性の問題を検討し、ULを25 mg/日に設定したが、これは米国の値よりはるかに低い。 | |||
米国の食品および栄養補助食品の表示目的では、1食あたりの摂取量は1日当たりの摂取量(デイリーバリュー)のパーセンテージ(%DV)で表される。亜鉛の表示目的では、1日摂取量の100%は15 mgであったが、2016年5月27日に11 mgに改訂された。新旧の成人一日摂取量の表は[[Reference Daily Intake/ja|基準一日摂取量]]に掲載されている。 | |||
====食事からの摂取量==== | |||
==== | [[File:Foodstuff-containing-Zinc.jpg|thumb|upright|亜鉛を含む[[Recommended Dietary Allowance/ja|食品と調味料]]|alt=テーブルの上に様々な穀物、果物、野菜が皿いっぱいに並んでいる。]] | ||
[[File:Foodstuff-containing-Zinc.jpg|thumb|upright|[[Recommended Dietary Allowance| | |||
肉、魚、貝、家禽、卵、乳製品などの動物性食品には亜鉛が含まれている。植物に含まれる亜鉛の濃度は、土壌中の濃度によって変化する。土壌中に十分な亜鉛がある場合、亜鉛を最も多く含む食用植物は小麦(胚芽とふすま)と、[[sesame/ja|ゴマ]]、[[poppy/ja|ケシ]]、[[alfalfa/ja|アルファルファ]]、[[celery/ja|セロリ]]、[[Mustard (condiment)/ja|マスタード]]などの各種種子である。亜鉛はまた、[[bean/ja|豆]]、[[nut (fruit)/ja|ナッツ]]、[[almond/ja|アーモンド]]、[[whole grain/ja|全粒穀物]]、[[pumpkin seed/ja|かぼちゃの種]]、[[sunflower seed/ja|ひまわりの種]]、[[blackcurrant/ja|ブラックカラント]]にも含まれている。 | |||
その他の摂取源としては、[[food fortification/ja|強化食品]]や様々な形態の[[dietary supplement/ja|栄養補助食品]]がある。1998年のレビューでは、米国で最も一般的なサプリメントのひとつである酸化亜鉛と炭酸亜鉛は、ほとんど不溶性で体内吸収が悪いと結論づけられた。このレビューでは、酸化亜鉛や炭酸亜鉛を摂取した被験者の血漿中亜鉛濃度が、酢酸亜鉛や硫酸塩を摂取した被験者よりも低いという研究が引用されている。しかし、2003年のレビューでは、安価で安定した供給源で、高価な形態の亜鉛と同程度に吸収されやすいものとして、穀類(酸化亜鉛を含む)を推奨している。2005年の研究では、トウモロコシのトルティーヤに強化剤として添加した場合、酸化亜鉛や硫酸塩を含む様々な亜鉛化合物の吸収率に統計学的な有意差は認められなかった。 | |||
== 欠乏症 == | |||
{{Anchor|Deficiency}} | |||
{{Main|Zinc deficiency}} | {{Main/ja|Zinc deficiency/ja}} | ||
開発途上国では20億人近くが亜鉛不足に陥っている。リスクがあるグループには、発展途上国の子供や慢性疾患を持つ高齢者が含まれる。子どもの場合、感染症や下痢の増加を引き起こし、世界中で年間約80万人の子どもの死亡の原因となっている。世界保健機関(WHO)は、重度の栄養失調と下痢に対して亜鉛の補給を提唱している。亜鉛の補給は、特に低出生体重児や発育不良の 子どもたちの疾病予防と死亡率の低下に役立つ。しかし、亜鉛サプリメントは単独で投与されるべきで はない。なぜなら、開発途上国の多くの人々はいくつ かの欠乏症を抱えており、亜鉛は他の微量栄養素と相互 作用するからである。亜鉛欠乏は通常、食事からの摂取不足によるものであるが、[[malabsorption/ja|吸収不良]]、[[acrodermatitis enteropathica/ja|腸性肢端皮膚炎]]、慢性肝疾患、慢性腎疾患、[[sickle cell disease/ja|鎌状赤血球症]]、[[diabetes/ja|糖尿病]]、[[malignancy/ja|悪性腫瘍]]、その他の慢性疾患に関連することもある。 | |||
米国では、連邦政府による食品消費量の調査で、19歳以上の女性と男性の平均消費量は、それぞれ9.7と14.2 mg/日であった。女性では17%、男性では11%がEARを下回っていた。EARを下回る割合は年齢とともに増加した。この調査の最新版(NHANES 2013-2014)では、平均摂取量は9.3mg/日と13.2mg/日と低く、やはり年齢とともに摂取量は減少している。 | |||
軽度の亜鉛欠乏症の症状は多様である。臨床的転帰としては、成長低下、下痢、インポテンスと性成熟の遅延、[[alopecia/ja|脱毛症]]、眼や皮膚の病変、食欲低下、認知機能の変化、免疫機能の低下、炭水化物利用の欠陥、生殖[[teratogenesis/ja|催奇形性]]などがある。 | |||
懸念もあるが、欧米のベジタリアンやビーガンは、肉食の人たちよりも明らかな亜鉛不足に悩まされることはない。主な植物性亜鉛源としては、調理した乾燥豆類、海藻類、強化穀類、大豆食品、ナッツ類、エンドウ豆、種子類などがある。しかし、多くの全粒穀物や繊維に含まれる[[phytates/ja|フィチン酸塩]]は亜鉛の吸収を妨げる可能性があり、わずかな亜鉛の摂取が及ぼす影響はあまり理解されていない。亜鉛の[[chelation/ja|キレーター]][[phytic acid|phytate/ja|フィチン酸塩]]は種子や[[cereal/ja|穀類]][[bran/ja|ブラン]]に含まれるフィチン酸は、亜鉛の吸収不良を引き起こす可能性がある。一部のベジタリアンのようにフィチン酸塩を多く含む食事をしている場合には、米国のRDA(成人女性で8 mg/日、成人男性で11 mg/日)以上の摂取が必要であることを示唆する証拠もある。[[:en:European Food Safety Authority|欧州食品安全機関]](EFSA)のガイドラインでは、食事のフィチン酸塩摂取量が多い場合、より高い亜鉛摂取量を推奨することで、これを補おうとしている。これらの考慮は、適切な亜鉛[[biomarker/ja|バイオマーカー]]が少ないこととのバランスをとる必要があり、最も広く使用されている指標である血漿亜鉛は[[sensitivity and specificity/ja|感度と特異度]]が低い。 | |||
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